9月6日のザクセン=アンハルト(SA)州議会選挙、9月20日のメクレンブルク=フォアポンメルン(MV)州議会選挙で極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が大勝した理由は、メルツ政権と伝統政党に対する有権者の強い不満と、「統一以来、貧乏くじを引かされてきた」と感じる旧東ドイツ市民の「怨念」だ。
9月6日、SA州議会選挙で親指を立てて喜ぶAfDのジークムント筆頭候補
AfDが無党派層を大動員
AfDの勝利は予想されていたが、これほど地滑り的な結果になるとは予想されていなかった。AfDの得票率は、どちらの州でも前回の選挙の約2倍に達した。同党はSA州で前回選挙で投票しなかった無党派層約17万人、MV州では無党派層約8万人の票を獲得することに成功した。どちらの選挙でも、投票率が前回比で大幅に増えた。その理由は、「メルツ首相とキリスト教民主同盟(CDU)を懲らしめてやる」と能動的にAfDを選んだ市民が多かったからだ。
CDUの得票率はどちらの州でも、前回の選挙の半分以下に減った。特にMV州でCDUの得票率は5%ラインに達せず、州議会の議席を失った。4.9%というCDUの得票率は、同党が第二次世界大戦後の州議会選挙で記録した最低の数字だ。
フリードリヒ・メルツ氏については「2025年の首相就任前に約束したことを実行しない」、「発言をすぐに変える」、「旧東ドイツの現状を理解していない」という批判が強い。実際メルツ氏は、市民の神経を逆なでするような発言を時々行う。たとえば、彼は今年9月15日に「今日70歳または80歳の人は、繁栄、自由、平和、社会的安全しか経験していない」と言った。この発言は、旧東ドイツ市民の間で強い反発を呼んだ。多くの東ドイツ人は、統一後に国営企業が閉鎖されたために失業するなど、つらい経験をした。筆者の知人の間にも、旧東ドイツでの失業禍で苦労した人が何人もいる。メルツ氏の発言には、彼が旧西ドイツ人としての立場でしか、物事を見ていないことが浮き彫りになっている。旧東ドイツ市民の心情に配慮しない首相に、有権者は鉄ついを下した。
さらにメルツ政権が「45年間働いて公的年金の保険料を払い込めば、所定の年金支給年齢よりも前に年金を満額受け取れる制度」の廃止を目指していることも、多くの旧東ドイツ市民を怒らせている。旧東ドイツではこの制度を利用する人が多いからだ。旧東ドイツでは、CDUのアンゲラ・メルケル元首相が2015年以降、人道主義に基づく寛容な難民政策を取ったことに対する批判が今でも強い。
「 旧東ドイツ人たちの復讐」
ライプツィヒ大学のディルク・オシュマン教授は著書『西ドイツがでっち上げた東ドイツ』(未邦訳)の中で、「統一以来われわれ旧東ドイツ人が経験してきたのは、旧西ドイツ人による個人的、集合的な侮蔑と辱めの30年だった。旧東ドイツ人は過小評価され、ドイツ社会から締め出されている。旧東ドイツは、悪性腫瘍のように、ドイツの中の異常でみっともない悪の部分という烙印を押されている」と批判している。フランクフルター・アルゲマイネ紙も9月18日、「SA州の選挙結果は、旧西ドイツに適応させられ、命令され、支配されてきた歴史の敗者(旧東ドイツ人)たちが、投票用紙を使って行った復ふくしゅう讐だ。旧東ドイツ人は旧西ドイツ人に比べて劣り、愛されていない地域の住民と見られる苦痛を、今も克服できていない」と論評した。
SA州AfD支部のウルリッヒ・ジークムント筆頭候補が、東ドイツで開発されたスクーター「ジムゾン」に乗って遊説し、市民の東ドイツ・ノスタルジーに訴えて爆発的な人気を集めたことも、東西間の意識のギャップを示した。実際旧東ドイツでは、「われわれが求めているのはWende2.0だ」という声を聞く。Wendeとは、1989年のベルリンの壁崩壊からドイツ再統一に至る民主革命だ。今多くの旧東ドイツ人たちは、旧西ドイツ中心の政治体制を覆す「世直し」を求めている。そのために彼らは、AfDの一部の幹部が排外主義を主張したりナチスの犯罪を矮小化したりして、捜査当局から「反社会的団体」と烙印を押されているにもかかわらず、この党をあえて選ぶ。
旧東ドイツだけの現象ではない
だがAfDに対する人気は、旧西ドイツでも農村部を中心に高まりつつある。筆者は今年6月に上梓した著書『排外主義と闘うドイツ』に書いたように、2029年の連邦議会選挙でもAfDが首位に立つと予想している。その理由は2017年の連邦議会選挙以来、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)とAfDの得票率の差が選挙を行うごとに縮まっているからだ。すでにAfDへの支持率は、全国規模の世論調査でCDU・CSUを上回り首位にある。自動車業界、化学業界の苦境によって今後失業者数が増えた場合、今後旧西ドイツでもAfDへの支持率が高まるだろう。
すでにメルツ首相はCDU・CSUにとって、得票率を押し下げる「重荷」になっており、社会保障制度の改革を完遂する役割しか期待されていない。これまで国民政党(Volkspartei)と見なされてきたCDU・CSUや社会民主党(SPD)などは、その役割を失ったというべきだ。
ベルリン市議会選挙で左翼党(リンケ)が圧勝したことに表れているように、伝統的政党に失望した一部の若者たちは、極左政党に票を投じている。だが極右・極左政党がドイツの建て直しに成功するかどうかは、未知数だ。論壇では、「中道勢力を結集させて、民主主義を守るための新しい政党を作るべきだ」という意見も出始めている。
CDUで、メルツ氏の後継者として最も期待されているのは、ノルトライン=ヴェストファーレン州のヘンドリック・ヴュスト首相。だが有権者の間で分断が深まる一方の今日の政局は、ヴュスト氏の前途をも険しいものにするかもしれない。



インベスト・イン・ババリア
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