Hanacell

老後への備え
ドイツでの介護費用は保障されているか ①

渡辺・レグナー 嘉子

ドイツではひと頃、与野党間で、年金制度の安全性について激しい議論が交わされました。では、 介護保険についてはどうでしょうか。一般に、高齢時になってから必要となる介護保険については、家族や本人がそのような状況に直面するまで、詳しいことは分からないということが多いのではないでしょうか。

ドイツに住む日本人の間では、ドイツの社会保障制度の利点として、「医療費は健康保険が、介護費は介護保険が保障してくれる」という、神話のような説が安心感をもたらしてくれていました。少し前までは、この説を疑う人はほとんどいなかったのではないかと思います。しかしこの説こそが、私たち日本人がドイツで迎える高齢期の準備をする際の最大の障害になっている気がするのです。

というのもこの説は、ドイツの事情に精通していない人が、ドイツの介護・医療制度の形態から推測して、「健康保険がほとんどの医療をカバーし、介護保険が高額の介護費用を負担してくれるのだから、介護費はその保険だけで十分賄われるだろう」と考えてしまったために生まれたのかもしれません。

老後

確かに、ドイツの健康保険に加入していれば、よほどのことがない限り、たいていの病気は治療してもらえます。介護保険も、「過去10年間のうち、最低2年間の保険料の支払いがある」人に対しては、外国人であっても介護費が支給されます。家庭での介護に対しては、小額ではあるものの、介護手当が支払われ、介護ホームに入らざるを得ない場合には、例えば介護度1で月額1023ユーロ、介護度3の重篤な場合には1918ユーロ(2014年現在)をカバーしてくれます。

この金額を見る限り、介護保険の保障額は大きく、健康保険と両方あれば、安心して老後を迎えられるような気がします。ところが、ドイツの高齢者用介護ホームに入所する場合、医療・衛生上の諸々の基準や設備基準をクリアするために、介護保険の支給額を大幅に上回る経費が月々掛かり、介護を受ける人はその不足分を自分で支払わなくてはなりません。

ドイツの介護システムの利点として、身寄りのない人が介護費用を支払えなくなっても、地方自治体が生活扶助を支給し、一度入所したホームに居続けることができるということなどがありますが、家族がいて自宅介護が不可能な場合には、介護ホーム費用の不足分はすべて、自己負担となります。ホームによりますが、その月々の差額だけで、例えば介護度1で900~1700ユーロ、介護度3の重篤な場合では1370~2600ユーロ程で、本人または家族が、毎月その経費を負担し続けることになるのです。よほどの蓄えがあるか、高額の年金受給者でない限り、この金額は非常に大きな負担となります。

これが現在のドイツの介護システムの最大の問題点です。自分の全財産が介護保険の不足分に消えてしまうのを避けるために、ドイツ人の中には子どもへの財産分与を早い段階で行うなど、対策を考えている人もいます。次回は、高額な経費が掛かる介護ホームの現実問題と対策について、もう少し詳しくお話ししたいと思います。

Illustration: ©31design / www.31design.biz

 DeJaK-友の会からのお知らせ 

DeJaK-友の会では、本年、在独日本大使館に提出した委託調査結果を基に、ドイツの介護システムを知るために不可欠な情報や書類に関する説明を、『ドイツで迎える老後』という州別の冊子にまとめました。冊子をご希望の方は、ウェブサイト(www.dejak-tomomnokai.de)をご覧の上、代金をお振り込みいただき、住所氏名、ご希望の州名を明記して、同ウェブサイトの申込欄より、またはファックス(06221-8750226)にてお申し込みください。

渡辺・レグナー 嘉子
在独法人の高齢時の問題に積極的に関わっていくことを目指す「DeJaK-友の会」代表。 著書に日本語教科書『Japanisch, bitte! 日本語でどうぞ』『ドイツ会話と暮らしのハンドブック』『Bildwörterbuch zur Einführung in die japanische Kultur』などがある。
DeJaK-友の会((www.dejak-tomonokai.de)

 
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