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ぶどう畑の土壌 1 見えない土壌のメカニズム

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23章で「テロワール」という概念について簡単にご紹介しました。テロワールとは、あるぶどう畑の気候や土壌、地形などの自然・環境条件を総合したポテンシャルであり、個々の造り手もその一端を担っています。今回から数回にわたり、このうちの土壌にスポットを当てたいと思います。

ぶどう畑の土壌といっても、私たちの目に見えるのは残念ながら表面だけ。土壌研究をしている学者たちでも、実際にはあまり深くまで掘ることができないそうです。例えば、ラインガウ地方の多くのぶどう畑では、通常1メートルも掘らないうちに大きな岩石にぶつかり、それ以上は掘れなくなってしまいます。学者たちは、畑の周囲で基礎工事現場や崖崩れなどを見付けるたびに、土壌の様子を見に駆け付けるのだそうです。

ぶどうの根は水分とそれに含まれる養分を求めて地下へと伸びていきます。上層部に十分な水分があればそこにとどまりますが、そうでない場合は 小石や風化した岩石の間を縫って伸び、大きな石や岩盤に突き当たれば岩肌に沿って伸びていきます。そこでも水分が不足していれば、数本の太い根がなんとか隙間を探して、さらに深いところへと張っていきます。

ぶどうの根の部分には、ほぼすべてフィロキセラに耐性のあるアメリカ品種の台木が接ぎ木されています。造り手は多種ある台木から土壌に適したものを選択します。例えば、石灰分の多い土壌では意図的に石灰質土壌に適応した台木を使います。つまり、ぶどうの根の性質は、ワインの味を左右するぶどう品種本来の特性とは異なるのです。

穀物や野菜は一般に肥沃な土壌を必要としますが、ぶどうは大抵の土壌で育ちます。そのため古くから、主に腐植土から成るオーガニック成分の豊かな、肥沃な土地では、人間の生命維持に欠かせない食物が優先的に栽培され、ワイン用ぶどうは、それ以外の「痩せた」土地で栽培されてきました。ところが、痩せた土地で栽培したぶどうから、優れた品質のワインができることがあります。

痩せた土地とは、オーガニック成分がほとんどなく水分の乏しい土壌のことです。ぶどうが水分を求めて根を伸ばし、到達した深いところで、上層部とは異なるミネラル分を得ることができれば、そのぶどうから造られるワインは、ある特定の個性を獲得すると考えられています。 とはいえ、肥沃な土地でも優れたワインは造られており、浅くても十分なミネラルが蓄えられている土壌はありますし、ほかにも無数の土壌の組成が存在します。

土壌の組成や成分と出来上がるワインの品質や成分との関連性については、まだほとんど解明されていません。人間がどのようなワインを素晴らしいと感じるかによっても、その答えは異なってきます。確実にいえるのは、私たち飲み手はテロワールという「一期一会」から生まれるワインの表現力を享受しているということだけなのかもしれません。

(6章にわたる土壌編は、ガイゼンハイム研究所で土壌学・植物栄養学を研究するペーター・ベーム博士(Dr. Peter Böhm)との対話をもとに構成しています。)

 
Weingut Georg Breuer
ゲオルク・ブロイアー醸造所(ラインガウ地方)

醸造所のオーナーハイ・クオリティーのワインで世界的に評価が高いラインガウ地方の老舗醸造所。所有畑は33ヘクタール、栽培品種はリースリング(80%)やピノ・ノワール(11%)など。亡き父ベルンハルトの後を継ぎ、娘のテレザが2011年から醸造所のオーナーを務める。彼女は父親が亡くなった後、ガイゼンハイムで国際ワイン経済学を勉強し始め、07年に学業を終えると、実家の醸造所の運営に専念することになった。「父からは、人から笑われても自分の信念を貫き、夢を実現するということを学んだの」とテレザ。ベテランの栽培責任者や醸造責任者とコミュニケーションを密に取り、理想とするワインの実現に奔走中だ。テレザは醸造所の伝統を守りながら、環境に配慮した究極のエコ・ワイン造りを目指している。11年からは厳格なエコロジー基準に従ってすべての畑の手入れを行っているが、特定のエコロジー連盟、団体には加盟していない。

Weingut Georg Breuer
Grabenstraße 8, 65385 Rüdesheim
Tel. 06722-1027
www.georg-breuer.com


2011 Terra Montosa
2011年 テラ・モントサ 16.00€

2011年テラ・モントサテラ・モントサは、テレザの父ベルンハルトが1990年に世に出したワイン。以後、毎年リリースされている。「父は残糖と酸が調和した食事にふさわしいリースリングを造りたくて、このワインをスタートさせた」とテレザは言う。リューデスハイムのベルク・ローゼンエック、ベルク・ロットラント、ベルク・ シュロスベルク、ラウエンタールのノンネンベルクという4つの偉大な畑で育つ、樹齢の低い木のぶどうから造られたリースリングをブレンド。このワインには、醸造所の個性が凝縮されている。テラ・モントサとは、ラテン語で「山のような土地」を意味する。リースリングを飲む楽しみを心から感じさせてくれるワイン。

 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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