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ぶどう畑の土壌 2 畑の風景ができるまで

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土壌について門外漢の私が、ぶどう畑の成り立ちを何億年にも遡って述べるなど、とてもできない業です。そこで今回は、ガイゼンハイム研究所のペーター・ベーム博士が所属する調査グループが作成した資料を基に解説したいと思います。彼らの調査対象は、希有な地形としてその一部が世界遺産にも指定されているライン川流域。その成り立ちを簡単に追ってみましょう。

今から約4億年前の後期デヴォン紀、ヨーロッパとアメリカはローラシア大陸という1つの大陸を形成し、その南には南米、アフリカ、インド、オーストラリア、南極などが合わさったゴンドワナ大陸があったといわれています。当時、ライン地方は平らで内海があり、やがて河川がその内海へ大量の砂と粘土(トーン / Ton)を運び込むと、岸辺には目の粗い砂がたまり、海底には細かい粘土の粒子が堆積していきました。海底は何度も沈下し、堆積土砂は厚さ数キロメートルにも及ぶ岩石層となりました。デヴォン紀の終わりに大陸間の衝突が起こり、堆積層は押されて折り畳まれ、山塊は海面上まで隆起します。急傾斜の形成、岩石のスレート化はこの時に起こり、ライン・スレート山地(Rheinisches Schiefergebirge)が形作られました。また、石化した堆積物は上にある岩石の強い圧力によって変成していきました。

砂からは珪岩(クワツィット / Quarzit)が、粘土からは 変成過程にある粘板岩(トーンシーファー / Tonschiefer)ができ、こうして形作られたタウヌス珪岩やフンスリュック粘板岩(フンスリュックシーファー)は、ミッテルライン地方のぶどう畑の代表的な土壌となっています。

今日の地形は、約5000万年前の上ライン地溝(Oberrheingraben)とマインツ盆地(Mainzer Becken)の沈下によって出来上がりました。約3000万年前の漸新世にはこの場所は海で、亜熱帯の海岸だったタウヌス(Taunus)とベルクシュトラーセ(Bergstraße)の辺りにはサメやマナティーが生息していたそうです。大海と繋がっていたのは数百万年間だけでしたが、ライン川流域には小石や砂、粘土、石灰岩など、海の痕跡がみられます。海が引けると川の流れができましたが、粘板岩の山々はまだ深部にあり、後にライン川となる流れは緩やかな谷を縫って北方の海へ向かいました。

約200万年前の更新世には、粘板岩の山々が隆起して川は深いところに沈み、ドイツのグランドキャニオンとでもいうべきライン峡谷が形成されました。更新世とともに氷河期(氷期と間氷期が繰り返されます)が始まり、後期にはアルプスの氷河がライン川を形成、氷期と間氷期の繰り返しは今日も続いているそうです。氷結と氷解の繰り返しが岩を砕き、風化と堆積が起こって現在の風景が出来上がっています。ラインガウ地方やベルクシュトラーセ地方の斜面には、氷河期の風の強さを物語る、飛翔した砂塵の厚い層が形成されています。風にさらされない場所で空中から砂塵が梳き出され、形成されたのが黄土(レス / Löss)の堆積土壌です。黄土は今日、両地域の丘を広範囲にわたって覆っています。

さて、5億年前の世界と今日のぶどう畑の風景が、少しだけ繋がってきたでしょうか?

(参考資料: Terroir Hessen, Vielfalt erleben!,Gesellschaft für Rheingauer Weinkultur mbH Kloster Eberbach, 2008)

 
Weingut Balthasar Ress
バルタザー・レス醸造所(ラインガウ地方)

醸造所のオーナーラインガウ地方ハッテンハイムの伝統ある醸造所。1870年 の創業以来、ワイン造りのほか、ホテル・レストラン業にも着手し、事業を拡張してきた。1970年代に醸造所とホテル業を分離。当時は数ヘクタールの小さな醸造所だったが、先代のシュテファン・レスの時代に所有畑は46ヘクタールにまで拡大した。90年代にハッテンハイムの旧協同組合の建物を購入し、改築・移転。由緒ある旧醸造所は特別な催し物に使用されている。現在のオーナーは5代目のクリスチャン・レス(写真)。フランケン、ボルドーで研鑽を積んだ彼は、ワインの品質に磨きを掛けるほか、2009年に旧醸造所のセラーにWineBANKをオープン。この会員制ワインセラーは、チップカードで24時間出入り可能で、テイスティングルームも完備した贅沢な施設。キャパシティーは3万5000本。月額44 ~ 199ユーロで異なるサイズのセラースペースを借りられる。また、13年ヴィンテージからは北海ズュルト島産のラントワインをリリース予定。革新的な醸造所として知られる。VDP会員。

Weingut Balthasar Ress
Rheinallee 7, 65347 Hattenheim
Tel. 06723-91950
www.balthasar-ress.de


2011 Schloss Reichartshausen Riesling Kabinett feinherb
2011年 シュロス・ライヒャルツハウゼン 11.10€

2011年 シュロス・ライヒャルツハウゼンバルタザー・レス醸造所の栽培品種は、ラインガウ地方の典型的な醸造所と同じく、9割がリースリング。ほかにシュペートブルグンダー、ヴァイスブルグンダーを少量栽培している。ハッテンハイムのほか、エアバッハ、リューデスハイムにも名醸畑を所有。ハッテンハイムの「シュロス・ライヒャルツハウゼン」はモノポール(単独所有)。12世紀以来、エーベルバッハ修道院の所有畑だったという由緒ある畑を、同醸造所は1979年から所有している。ライン川に面して広がる4ヘクタールの畑の土壌は石灰質土壌の混じるレス(黄土)。栽培品種は、リースリング100%。酸味とほのかな甘みの絶妙なバランスを保った軽快なワイン。アルコール度数は9%。

 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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