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Di. 07. Feb. 2023

クラルスフェルト夫妻の特別展 「忘却との闘い」

1968年11月7日、西ベルリンで行われたキリスト教民主同盟の党大会で、「事件」は起きました。一人の若い女性が突然壇上に上がり、「ナチ!」と叫びながら、キージンガー首相(当時)の頬に平手打ちをくらわせたのです。女性の名前は、ベアーテ・クラルスフェルト(1939~)。かつてナチ党員で外務官僚だったキージンガーの過去を公然と世に知らしめた出来事でした。この行動は賛否両論を巻き起こしながらも、西ドイツ社会で忘れられつつあったナチス時代の記憶に人々が対峙していく上で、大きな刺激を与えました。

歴史記念館「テロのトポグラフィー」で、ナチ・ハンター(戦犯追及者)として知られるベアーテ&セルジュ・クラルスフェルト夫妻の特別展が開催されています(入場無料)。これは2017年にパリのショアー記念館で行われた展覧会を改訂したもので、この夫妻の足跡を写真や当時の新聞記事、数多くの資料と共に紹介しています。

特別展「ベアーテ&セルジュ・クラルスフェルトー忘却との闘い」より特別展「ベアーテ&セルジュ・クラルスフェルトー忘却との闘い」より

1960年、オペア(外国の現地家庭に住み込みで働く留学プログラム)でパリに滞在していたベルリン出身のベアーテは、ある駅でセルジュ・クラルスフェルト(1935~)と運命的な出会いを果たします。セルジュはルーマニア出身のユダヤ人。戦時中、ナチの傀儡(かいらい)であるヴィシー政権下のフランスで一家は潜伏しており、自身と母親らはかろうじて生き延びたものの、父親はアウシュヴィッツに送られ殺害されました。ベアーテは出身国の巨大な犯罪に衝撃を受け、やがて結婚した二人は、ナチ時代の犯罪を追求・解明することをライフワークとしていきます。

例えば、1979年にはフランスでユダヤ人の強制輸送を主導したクルト・リシュカら三人の元親衛隊隊員をケルンでの裁判に持ち込み、それぞれに懲役が下されました。やはりヴィシー政権下のリヨンで、8000人以上を強制輸送所に送って殺害させた「リヨンの虐殺者」の異名をもつクラウス・バルビーがボリビアに潜伏していることを突き止め、10年以上かけてフランスにその身柄を引き渡したのも彼らの功績です。

この夫妻の活動は、元ナチの追及や抗議活動にとどまりません。展示の一角に、大判の本が置かれていました。これはセルジュが調査して出版した、フランスから強制輸送された7万6000人のユダヤ人の記録名簿。2012年の増補版は7キロもあり、ページをめくりながら、命の重さを体感しました。

クラルスフェルト夫妻の幅広い活動が26枚のパネルに展示されているクラルスフェルト夫妻の幅広い活動が26枚のパネルに展示されている

展示の最後に書かれた一文が目にとまりました。「戦時に生まれたこの子どもたちの闘いを、私たちの世紀では誰が続けるのでしょうか?」。世界的に民主主義が後退している時代ですが、「簡単に諦めてはいけない」と、今回の特別展のオープニングのためにベルリンを訪れたクラルスフェルト夫妻に励まされたような気持ちになりました。展示は2月19日(日)まで。

Topographie des Terrors www.topographie.de
 
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中村さん中村真人(なかむらまさと) 神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。現在はフリーのライター。著書に『ベルリンガイドブック』(学研プラス)など。
ブログ「ベルリン中央駅」 http://berlinhbf.com
守屋健(もりやたけし) ドイツの自動車、ビール、そして音楽に魅せられて、2017年に渡独。現在はベルリンに居を構えるライター。健康維持のために始めたノルディックウォーキングは、今ではすっかりメインの趣味に昇格し、日々森を歩き回っている。
守屋 亜衣(もりや あい) 2010年頃からドイツ各地でアーティスト活動を開始し、2017年にベルリンへ移住。ファインアート、グラフィックデザイン、陶磁器の金継ぎなど、領域を横断しながら表現を続けている。古いぬいぐるみが大好き。
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