最近日本からゲストがやってきてベルリンを案内したのですが、そこであらためてベルリン東西分断について考える機会がありました。現在私が住んでいるのは旧東ドイツに当たるエリア。アレクサンダー広場からフランクフルター・トアー駅にかけて続くカール・マルクス通りを通るたびに、DDR(旧東ドイツ)および旧ソビエト連邦の面影を感じます。
当時の生活用品の紹介。当時からビールは比較的安価な印象
カール・マルクス通りの一部は、1961年まではスターリン通りとも呼ばれていて、DDRによって建てられたかつての豪華な集合住宅群、別名「労働者のための宮殿」(Paläste für die Arbeiter)を見ることができます。その建築には、労働者たちに単なる住居以上のものを提供するとともに、資本主義の西側諸国に対して社会主義体制の優位性を示そうとするDDRの意図も込められていました。当時の社会主義国家による威厳と痕跡が静かに佇むカール・マルクス通りを案内していたら、東ドイツの暮らしはどんなものだったのかという話題は移り、これまで訪れたことのなかったDDR博物館へ足を運ぶことにしました。
どこかシュルレアリスムを感じさせるような、グリム童話『Der süße Brei』
DDR博物館はベルリン大聖堂の近くに2006年に開館し、今年で20周年を迎えました。東ドイツの日常生活を体験することに重点を置いた博物館で、なんといっても展示方法がとてもユニーク! 東ドイツを代表する車トラバントに乗ることができたり、当時の一般的な住居が再現されていたり。引き出しや扉を開けた先に新たな発見が待っているような体験型の展示も多く、訪問者を飽きさせません。当時の生活用品の価格やさまざまな職業の給料も紹介されていて、もし自分がここで暮らしていたら、どのくらいの給料をもらい、何にお金を使っていただろうと、もう一つの世界線にいる自分の生活にまで想像をめぐらせることができました。
扉を開くと当時の雑誌や新聞を覗ける仕組み。ヴェルナー・クレムケの表紙のイラストが特徴の「Das Magazin」
特に興味深かったのは、DDR時代の本でした。現在も刊行されている「Das Magazin」は、人目を忍んでしか入手できなかったようで、ヌード写真のみならずアーティストのインタビュー、レシピやファッションのアドバイスも掲載されていたようです。またプロパガンダを思わせる労働がテーマの絵本も多いなかで、DDR時代に出版されたグリム童話『Der süße Brei』(おいしいおかゆ)は、魔法の鍋からおかゆが溢れ出す奇想天外な光景が、写実的でありながら版画を思わせる繊細な線で描かれています。かなりのボリュームと手の込んだ展示で、時間内に全てを見ることはできませんでしたが、自分が今暮らしている街の日常と、かつて同じ場所で暮らしていた人々の日常とが重なり合うような、貴重な体験となりました。



インベスト・イン・ババリア
スケッチブック
中村真人(なかむらまさと) 神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。現在はフリーのライター。著書に『




