Hanacell

戻ってきた国王

初夏とは思えない暑さの中を娘と散歩に出かけた日、シュロス広場で銅像の設置作業が行われており、多くの観光客や市民が見守っていました。シュロス広場は街の観光の要で、宮廷教会やレジデンツ城が面し、「君主の行列」の壁画とアウグスト橋はここから伸びています。地面には長方形の区画が示されており、恐らく銅像があったのであろうと想像していました。しばし立ち止まって眺めていると、「少し説明をしてもいいですか?」と、50代と思われる男性が話しかけてきました。ベビーカーが決め手となり、私がドレスデン在住の外国人だということが分かったのでしょうか。この男性は、戦後直後にこの街に生まれ、ここで育った歴史文筆家でした。

座位の像は、初代ザクセン王国国王フリードリッヒ・アウグスト1世(1750-1827)。始めはザクセン選帝侯でしたが、1806年の神聖ローマ帝国の解体に伴ってザクセンは王国となりました。彼はナポレオンとの戦争によって荒廃した国を復興させることに尽力して法改正を行い、その後ザクセンの工業化は大いに進展し、ドレスデンは学問の中心地となりました。「正義王」とも呼ばれており、像は左手に「法」と書かれた本を抱え、古代ギリシャの哲学者のような着衣で表現されています。この像の作者は19世紀前半のドレスデンの彫刻家エルンスト・リーチェルで、ワイマールの劇場広場に立つゲーテとシラーの像の作者として有名です。

「君主の行列」に描かれたフリードリッヒ・アウグスト1世
「君主の行列」に描かれたフリードリッヒ・アウグスト1世

当初、この場所には第5代ザクセン王国国王アルベルトの騎馬像が立っていましたが、1945年の空爆時の火災で被害を受け、52年に撤去されました。一方、フリードリッヒ・アウグスト1世の像はもともと日本宮殿の脇にありましたが、環境汚染による損傷がひどく、20万ユーロをかけて修復され、このたび、この広場に設置されることになったのでした。

「戦後のドレスデンはどこも空白でした。こうやって一つひとつ戻ってくることは、市民にとって嬉しいことなのです」と、その歴史文筆家の男性は締めくくりました。半世紀以上も不在だった場所に像が設置され、広場としての空間がやっと完成したことに対する人々の感慨が伝わる光景でした。

人々が見守る中での設置作業
人々が見守る中での設置作業

フリードリッヒ・アウ グスト1世の像
フリードリッヒ・アウグスト1世の像

福田陽子さん福田陽子
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
http://yoyodiary.blog.shinobi.jp/
 
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