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旧東ドイツ時代の建築遺産 リング・アパートとカフェ

ライプツィヒ市の中心部をぐるっと囲む幹線道路(リング)沿いに、都市の重要な景観の一部になっている建物があります。これが、オペラ座とゲヴァントハウス(コンサートホール)の斜め向かい側に建つ集合住宅「リング・アパート」です。7階から9階建ての14棟の建物の中に197戸の住戸があり、道路に沿って40mもの長さがあります。1956年に建築家ルドルフ・ローラーによって設計されたもので、古典的な社会主義であるロシア建築様式が実現された建物です。ベルリンのスターリン建築様式であるカール・マルクス・アレーの街並みを手本として、「国民の宮殿」をモットーに旧東ドイツ(DDR)時代の国家プログラムとして建設されました。

リング・アパート
道路に合わせて緩やかにカーブを描いているファサード(建物の正面)

そして、この建物のメインとなるのが中央にある「リング・カフェ」です。通りに面して大きなガラス窓と優雅なテラスがあり、地上階と1階に計800席を有する、当時としてはDDR最大規模のカフェでした。天然の大理石や大きな鏡、豪華なシャンデリアと壁画、そして華麗な階段の手すりなどぜいたくにあつらえた内装から、60年前、このカフェにどれほどの力が注がれたかが伺い知れます。国際的なメッセ(見本市)の都市として発展してきたライプツィヒには、メッセシーズンになると、世界中から絶えず来訪客が押し寄せ、このカフェで毎週行われていた舞踏会は席を予約するのも困難だったそうです。

リング・カフェ
オープン当時の「リング・カフェ」

さらに敷地の北側には、ゲーテの戯曲「ファウスト」の泉の場面にちなんだ井戸があります。1906年に彫刻家ウェルナー・シュタインによって作られたこの井戸には、水くみをする女性のブロンズ像が立ち、足元には3つの格言が刻まれています。その中にこんな一文がありました。

„Wasser nimmt alles weg, nur schlechte Reden nit“
水は全てを流すが、悪質な話だけは残る

印象に残る強い言葉です。

東西の壁崩壊後、残念ながらカフェとしての営業は以前のようには続きませんでした。2003年からは、プロテスタントの宗教団体(Freie evangelische Gemeinde) が地上階を使用しており、上階はセミナーやシンポジウム、映画上映やファッションショー、コンサートなど、催し物がある際に貸し切りが可能です。

www.ring-cafe-leipzig.de

ミンクス 典子
ドイツ建築家協会認定建築家。福岡県出身。東京理科大学建築学科修士課程修了後、2003年に渡欧。欧州各地の設計事務所に所属し、10年から「ミンクス・アーキテクツ」主宰。11年より日独文化交流拠点ライプツィヒ「日本の家」の共同代表。
www.djh-leipzig.de
 
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