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文化財の過去と現在を知るエスリンゲンで時間旅行

本誌987号ですでに紹介したことがありますが、ドイツでは毎年9月の第2日曜日は文化財一斉公開の日(Tag des offenen Denkmals)と定められています。今筆者が住んでいる街エスリンゲンの文化財公開に、今年もまた出かけました。エスリンゲンだけでも700以上の文化財があるそうで、毎年違ったテーマが設定されていて、公開されている建物も年ごとに違います。2019年のテーマは、「芸術と建築の変遷(Moderne Umbrüche in Kunst und Architektur)」。エスリンゲンでは4つの巡回コースのほか、29の建物が一般公開されました。

エスリンゲンシナゴーグの外観エスリンゲンシナゴーグの外観

今回は、旧市街の東に位置するマイナーな建物を選んで回りました。まず向かったのは、LIMAという人形劇シアター。30人ぐらいしか入れないようなミニシアターで、比較的天井が低い空間なのに、頭上にはゴシックの尖がったアーチがちょうど1個分広がっています。中に入ってくる人たちは、思わず見事なアーチを仰いでいました。シアター前方の舞台と思われる位置にスクリーンが下りていて、このシアターの由来を紹介する資料を映しながら、ガイドが始まりました。

シナゴーグの内部、中心にあるのはトーラーシナゴーグの内部、中心にあるのはトーラー

建物の歴史は14~15世紀当時の靴職人の業界組織、いわゆるギルドハウス(Zunfthaus)にさかのぼります。それから幸いにも1701年のエスリンゲン大火を免れ、2度の世界大戦でも損傷は受けませんでした。その後何十年もの間、個人の所有として居住空間にも姿を変えましたが、1984年にミュンヘンアカデミーの教授によって人形劇の上演が始められたそうです。現在も大規模な改築は行わず、昔の空間と座席のままで運営されています。ガイドの後で、ちょっとだけ人形劇も披露してもらいました。中世の建物でヴィンテージの椅子に座り、見るのはモダンな映像技術とマリオネットによる現代の演劇。なんとも面白い組み合わせでした。

劇場LIMAの舞台劇場LIMAの舞台

ミニ劇場から少し先に進み、今度はエスリンゲンのシナゴーグ、つまりユダヤ教の会堂に入ります。男性の来客は全員キッパー(ユダヤ教の男性がかぶる帽子のようなもの)を渡され、それをかぶってから入場。頭を隠すことで、神に対しての謙遜の意思を表すそうです。この建物の前身も中世の裁縫職人のギルドハウスで、1819年に初めてこの地でユダヤ教の会堂になりました。1938年、ユダヤ人が壮絶な迫害を受けているなか、当然ここも悲惨な過去を経験しました。戦後、建物は青少年の家やアートギャラリーなどさまざまな用途で使われましたが、2012年にようやくシナゴーグに戻されました。室内は白い壁のままで、装飾がまったくないという質素な印象。ガイドの人は、質問に丁寧に回答してくださり、聖典であるトーラーも見せてくれました。1時間半にもわたるガイドでしたが、説明される内容がどれも新鮮で、あっという間に時間が過ぎていきました。

郭 映南(かく えいなん)
中国生まれの日本国籍。東北芸術工科大学卒業後、シュトゥットガルト造形美術大学でアート写真の知識を深める。その後、台北、北海道、海南島と、渡り鳥のように北と南の島々を転々としながら写真を撮り続ける。
Instagram : @einankaku

 
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