新型コロナウイルスの感染拡大により、多くのコンサートやイベントが秋までキャンセルとなってしまいました。そんななか、「1:1コンサート」が話題を呼んでいます。「1:1コンサート」とは、その名の通り、演奏家1名に対して聴き手1名で行われる演奏会。シュトゥットガルト州立管弦楽団、SWR交響楽団、州立フランクフルト音楽芸術大学の音楽家たちにより、シュトゥットガルトとフライブルク、そしてベルリンでもこのコンサートが行われています。
シュトゥットガルト空港のコンサート会場の様子
この「1:1コンサート」はもともと、2019年に開催された「Sommerkonzerte Volkenroda」という音楽祭のプログラムの一つとして始まりました。現代美術家であるマリーナ・アブラモヴィッチの「The Artistis Present」というパフォーマンスから着想を得ているそうで、音楽という枠を超えた参加型のパフォーマンスアートともいえるでしょう。そしてこの演奏会形式は、今回のコロナ禍で改めて日の目を見ることになりました。今のところ、7月下旬ごろまで開催される予定だそうです(延長される可能性もあり)。
私はパフォーマンスアートがもともと大好きなので、今の時代に沿った形で行われるこのコンサートにとても興味がありました。早速「1:1コンサート」のホームページ経由でチケットを確保し、このコンサートに行ってみることに。会場は音楽ホールだけでなく、シュトゥットガルト空港やギャラリーなどさまざま。私は街中から程近い、Haus der Musik im Fruchtkastenを訪れることになりました。どの楽器の奏者が何を弾くかは、その日のお楽しみ。子どもが遠足の日を待ちわびるように、わくわくしながら演奏会当日を待っていました。
アートギャラリーも会場になっています
コンサートはまず、演奏家と聴き手が2メートルの距離を取った上で対面し、アイコンタクトを取るところから始まります。相手の目を見て、ミュージシャンはどの曲を演奏するか決め、その人のためだけに10分間演奏。入場から退場までの間、会話や発言は許されませんが、身振りや表情などで意思疎通を試みることはできます。
私に演奏を聴かせてくれたのは、クラシックギター奏者のJonas Khalilさん。生身の演奏家がその場で繰り出す音楽が、ダイレクトに伝わってきました。もちろん、ソファーに寝転がって手軽に観ることができるデジタルコンサートなどもいいですが、演奏家の感情がこもった音色は、スクリーン越しではなかなか体感できないもの。今回のコンサートを体験し、ひしひしと生の音楽や芸術の大切さを痛感するとともに、われわれの生活に欠かせないものだと思いました。コロナが終息する日が来たら、さらにたくさんのものを実際に見て、聴いて、感じていきたいですね。
1:1 CONCERTS:http://1to1concerts.de
大阪生まれ、東京育ち。在シュトゥットガルト13年。Merz Akademie大学視覚コミュニケーション科卒。語学力を武器に、日本企業のリロケーションをサポートしながら、メディアデザイナーとしても幅広く活躍している。趣味はギターと読書。