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血液型が変わる? - 骨髄移植とさい帯血移植

新聞などで時々話題になる造血幹細胞移植(ぞうけつかんさいぼう)とは
どんな移植ですか。また、どんな病気に対して行われるのでしょうか。

造血幹細胞移植はどのような病気が対象ですか?

「血液のがん」とも呼ばれる白血病(Leukemie)と、骨髄の造血機能の低下によって生じる再生不良性貧血(Aplastische Anämie)が、造血幹細胞移植の対象となる主な病気です。

白血病とは?

白血病は、骨の中にある骨髄(Knochenmark)で白血病細胞が無制限に増殖する病気です。白血病細胞の増加によって正常な血液を作れなくなることで、様々な問題が生じます。日本では、年間6000〜7000人の方が罹患します。白血病のうち、急性リンパ性白血病は子どもに多く(80%)、急性骨髄性白血病は大人に多く(80%)みられます。

 図1 骨髄は骨の中の血球の製造工場

造血幹細胞とは?

赤血球(酸素を運ぶ)・白血球(感染防御や免疫に関係)・血小板(止血に関与)は、骨髄という血液の工場で造られます。これらの血球が造られる源となる細胞が、造血幹細胞(Blutstammzellen)です。

なぜ白血病の治療に移植が必要となるの?

白血病の治療には、大量の抗がん剤と放射線照射が必要です。白血病細胞を完全に取り除いてしまう強い治療は、同時に正常な血球を造る機能をも壊してしまいます。そのため、白血病患者には血球(赤血球、白血球、血小板)を造ることができる新しい造血幹細胞が必要となります。

造血幹細胞はどこから入手する?

造血幹細胞は、骨髄、末梢血、さい帯血(赤ちゃんのへその緒に含まれる血液)に存在します。各々の移植は、「骨髄移植」「末梢血幹細胞移植」「さい帯血移植」に分類され、総称して造血幹細胞移植(Stammzelltransplantation)と呼ばれます。

図2 造血幹細胞の種類

自家移植と同種移植

あらかじめ採取しておいた患者自身の造血幹細胞を用いるのが「自家移植」。移植による合併症が少なく、移植細胞の生着が早いという利点があります。一方、提供者(ドナー)由来の造血幹細胞を用いるのが、「同種移植」(ヒトという同種の意)です。 同種移植の場合は、白血病細胞の混入の心配がなく、造血幹細胞の生着後は新しい白血球の免疫反応によるがん細胞への攻撃(GVL効果)が期待できます。

フル移植とミニ移植

フル移植とは、まず前処置として骨髄の白血病細胞を完全に取り除くことを目的に、強力な抗がん剤投与と放射線照射を行い、その後に移植を行う方法です。フル移植は身体への負担があり、基本的に50歳代前半までが限度とされています。それに対して、ミニ移植は50歳代前半以降の白血病患者にも適用できます。前処置としてフル移植より弱い抗がん剤や放射線の量での照射を用います。根絶やしにできなかった白血病細胞が仮に残っている場合には、同種移植のGVL効果による白血病細胞への攻撃力を利用します。

HLA型の適合性が大切

造血幹細胞の移植には、白血球の血液型である HLA型が重要です。骨髄移植や末梢血幹細胞移植では、ドナーと患者のHLA型が適合していなければなりません。HLA型が適合する確率は兄弟姉妹間で25%、親子で数%以下、非血縁者ではさらに低くなります。

骨髄移植について

骨髄から採取された造血幹細胞が用いられます。血縁者に適合するHLA型が見付からない時は、骨髄バンク(Konchenmarkspenderdatei)が重要な働きをします。登録者からのドナーの選出や骨髄提供手術などのプロセスがあり、実際の移植までに時間が掛かることがあります。

末梢血幹細胞移植について

白血球を増やす作用のあるG-CSFという注射を数日間続けた後に、末梢血から造血幹細胞を得ます。移植後の造血機能の回復が早いという利点があります。骨髄移植に比べ、移植片対宿主病(GVHD、後述)が多いと言われています。自家移植の大多数、血縁者間移植の60~70%で行われている方法です。

さい帯血移植について

今までは廃棄されていた「さい帯」から、母親の同意のもとに「さい帯血(Nabelschnurblut)」を採取します。新生児から切り離されたさい帯を用いるので、赤ちゃんにも母親にも負担は掛かりません。移植後の合併症である移植片対宿主病(GVHD、後述)が骨髄移植よりも軽く、HLA型が完全に一致していなくても移植できるという利点があるため、比較的短期間に非血縁者からの移植を進めることができます。ミニ移植と合わせ、年齢がやや高い白血病患者の治療の可能性を広げるのに役立っています。

図3 日本でのさい帯血移植件数の推移

移植による合併症は?

● 前処置の副作用  
移植に先立って行われる抗がん剤や放射線照射による副作用(口内炎、吐き気、下痢、脱毛、肝機能障害など)があります。多くの症状は1カ月以内に改善します。

● 移植片対宿主病(GVHD)  
ドナーの造血幹細胞から造られた白血球が、患者の身体そのものを他所の細胞とみなして反応、攻撃することによって生じます(下痢、発疹、肝障害など)。移植後2週間当たりから現れる急性GVHDと、移植後100日以降に現れる慢性GVHDがあります。治療には免疫抑制剤が用いられます。

● 感染症は大敵  
平均3〜4カ月の入院を伴って行われる造血幹細胞移植ですが、この期間、患者の免疫機能は非常に低下しています。そのため、移植された造血幹細胞が生着し、白血球の数が十分に増えるまでは、特に厳重な管理がなされます。また、移植後1〜2年間は感染症にかかりやすい状態が続きます。

● 卵巣と精巣の機能  
強い抗がん剤と放射線照射により、卵巣や精巣の機能が低下します。また、女性ホルモンの低下により、更年期障害に似た症状が現れることもあります。

血液型が変わる

白血球だけの血液型(HLA型)に基づいて行われる造血幹細胞移植では、移植後に赤血球の血液型(ABO型)が変わることがあります。例えば血液型A型の患者が血液型B型のドナーから造血細胞の提供を得た場合、その患者の最終的な血液型はB型に変わります。血液細胞の遺伝子情報(DNA)も提供者由来のものになります。

さい帯血バンクと骨髄バンク

善意のもとに提供されたさい帯血からの造血幹細胞は、さい帯血バンク(日本では、日本さい帯バンクネットワーク)に冷凍保存されます。10年間の保存が可能です。骨髄バンク(日本骨髄バンク)には、HLA型の検査が済んでいる骨髄提供のドナー登録がなされています。日本の骨髄移植は1992年から、非血縁者間の臍帯血移植は1997年から始まり、今までに小さな子どもを含む多くの患者の命を救っています。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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