現在、日本もドイツも高齢社会への道を突き進む中で、年金問題は両国の政府にとって頭痛の種となっている。政策レベルでは財源確保のために試行錯誤がなされているが、果たして勤労者自身は的確な老後対策を練っているだろうか?備えあれば憂いなし。今号では、ドイツで働く日本人にも関わるこの国の年金制度にスポットを当てる。(編集部:林 康子)
※本特集で紹介する基礎・一般情報を基に、さらに詳細な情報やご自身の年金について知りたい方は、日本国内の社会保険事務所、ドイツ国内のドイツ年金保険組合の事務所(本文内参照)にお問い合わせください。
日独社会保障協定 Q&A
ドイツで働くことになった際に、日本人として知っておきたいのが日独で結ばれている社会保障協定(Abkommen über Soziale Sicherheit)だ。そこでまず、この協定の概略をおさえておこう。
日独社会保障協定って何?
原則的に、年金加入の義務は就労している人が勤務する国で生じるので、国籍にかかわらず、ドイツならドイツの、日本なら日本の年金制度に従うことになる。ただ、例えば日本の会社に勤務する日本人がドイツに派遣されることになった場合、両国の年金制度に同時に加入しなければならず、年金の掛け捨てが生じるケースがあった。この二重加入を防止する目的で結ばれた年金に関する日独間の取り決めが「日独社会保障協定(以下、協定)」(1998年4月24日調印、2000年2月1日発効)だ。
協定の対象者は誰?

厚生年金保険
適用証明書交付申請書
同協定によれば、日本の事業所から派遣される被雇用者は、その期間が5年までであればドイツでの年金加入は免除され、ドイツ滞在中も引き続き日本の年金制度にのみ加入することが可能。該当する人は渡独前に社会保険事務所に申請し、日本の年金制度の対象者であることを証明する「適用証明書」を公布してもらおう。なお適用期間は、ドイツ年金保険組合への申請により認められれば、最長3年まで延長できる。さらにこの制度は、日本の自営業者がドイツで一定期間、同業の自営活動を営む場合にも適用される。
※協定はドイツから日本へ一時的に派遣される人にも同様に該当するが、ここでは日本からドイツに派遣される場合に限定する。
一時的な「派遣(Endsendung)」とは
日本の年金制度の加入対象者であることを証明する際に重要となるのが、「派遣」の定義。協定では、派遣は「被雇用者が、ドイツ滞在中も日本の事業所の勤務体系や報酬、社会保障制度に従って勤務する場合」と定義されている。
派遣とは認められない雇用形態
● 日本の事業所との雇用契約であっても、それが勤務先のドイツで結ばれた場合(現地採用)
● 通常の居住地が日本以外にあり(米国など)、日本の事業所の指令に基づいてドイツに派遣された場合
● 派遣であっても、現地の子会社や現地法人での雇用となる場合
ドイツの年金制度に任意加入できるってホント?
協定では、被雇用者が相手国に派遣されて働く際の、その国の年金制度への加入免除について規定しているが、これは「加入してはいけない」ということを意味するわけではない。ドイツに居住していれば、任意でドイツの年金制度に加入(Freiwillige Versicherung)することができるほか、ドイツですでに5年以上の年金加入期間がある場合には、日本に居ながらにしてドイツの年金制度に加入することが認められている。ドイツの年金に加入するメリットは以下の通り。
だからオススメ!ドイツの年金制度への任意加入
● ドイツに居住しながら日本とドイツ、どちらの国の年金にも加入義務がない場合(勤務していない場合など)、ドイツの年金に入れば、将来、稼得能力の減退による年金(「ドイツの公的年金」の欄参照)の受給権を得られる。
● ドイツの年金への任意加入で、受給の際に生じる待機期間(Wartezeit)を満たすことができる。
● 将来受け取るドイツの年金額を増やすことができる。
支払った年金保険料が戻ってくる!?
ドイツで年金保険料を収めながら、加入期間が5年に満たなかった場合は、それまでに支払った年金を還付(Beitragserstattung)してもらうことができる。なお、申請してから実際に還付されるまでには2年間待たなければならないので、受給は日本への帰国後ということになる。ただし、還付されるのは源泉徴収された被雇用者負担分のみ(「数字で見るドイツの年金」欄参照)。一方、年金受給の場合には雇用者負担分も加味される。将来的に再びドイツで働く可能性がある人は、還付を受けずにドイツの年金加入期間を増やし、受給資格を得られる5年の加入期間を満たした方がオトクということもある。
また、この還付制度は年金加入期間が5年に満たなかった65歳以上の人、同じく5年を満たさないまま亡くなった人の遺族にも適用される。
両国の年金加入期間の計算方法は?
年金を受給するには、一定の期間、年金保険料を納める必要がある。年金受給権を獲得するのに必要な期間は待機期間と呼ばれ、老齢年金の場合、ドイツでは5年、日本では25年となっている。協定の締結以前はいずれかの国で一時的に勤務し、年金保険料を納めたものの、待機期間を満たさずに掛け捨てとなるケースがあったが、協定により両国での年金加入期間を通算してこの要件を満たせるよう変更された。
年金加入期間の通算とは、両国での加入期間を合算するわけではなく、どちらかの国における待機期間を満たしているかどうかを判断する際に、もう一方の国での加入期間を通算できるということ。もし両国で受給要件を満たしていれば、両国の年金を受給でき、片方の国の要件のみ満たしている場合は、そちらの年金のみを受け取れる。また、両国の年金制度に二重加入をしていた期間は、二重に通算されることはない。
● 日本の年金加入期間は21年で要件の25年を満たさないが、ドイツでの加入期間を合わせると25年以上になるので、日本の老齢年金の受給資格を得られる。
● ドイツの年金加入期間は4年で要件の5年を満たさないが、日本での加入期間を合わせると5年以上になるので、ドイツの老齢年金の受給資格を得られる。できる。
年金の請求方法は?
日本とドイツ、両国での加入期間を通算して年金を請求する際、居住国にて申請を行える。窓口は日本在住なら社会保険事務所、ドイツ在住であればドイツ年金保険組合。必要書類については、各国でそれぞれ異なるので、窓口にて問い合わせを。ドイツの年金を日本で受け取る際には、日本円による日本口座への振り込み、ユーロによるドイツ口座への振り込み、日本国内の住所への小切手の発送の中から選択でき、日本の年金をドイツで受け取る際はユーロ建てでドイツ口座に振り込まれる。支払いペースは、ドイツの年金は月1回、日本の年金は2カ月に1回(偶数月)。
ドイツの年金相談窓口
ドイツ年金保険組合
TEL: 0800-100048070
www.deutsche-rentenversicherung-bund.de
※各地域の相談所の窓口は、上記ウェブサイトの左バナー「Servicebereich」の「Kontakt」より検索できる。
日本の年金相談窓口
社会保険庁運営部 年金保険課
東京都千代田区霞が関1-2-2
TEL: +81-(0)3-6700-1165
www.sia.go.jp/seido/old-kyotei/tetuzuki/tetuzuki03.htm
一時的な派遣に該当しない場合や無期限での派遣、現地採用の社員としてドイツで働く場合は、ドイツの年金制度に加入しなければならない。そうなれば、当然この国の年金制度についての基本的な情報を把握しておくことが必要だ。
※ドイツの公的年金の給付には、老齢年金(Altersrente)のほかに稼得能力の減退による年金(Rente wegen Erwerbsminderung)、死亡を理由とする年金(Rente wegen Todes)があるが、ここでは老齢年金のみを扱う。
老齢年金 / Altersrente
ドイツの老齢年金の受給条件は、満65歳以上であること、そして5年の加入期間を満たしていること。これらの条件を満たしていながら年金を受給しない場合は、受給額の割合が1カ月につき0.5%上がり、満66歳から受給を始める場合、65歳で受け取るよりも6%高い割合の金額を手に入れられることになる。
また、老齢年金を繰り上げて受給することも可能で、その場合の条件は満63歳以上であること、日独通算で35年の加入期間を経ていること、すでに引退して勤労していない、もしくは働いていてもパートタイムなど限定的な範囲の職務であること、となっている。たしこの場合、65歳に達するまでは1カ月当たりの支給額が0.3%の減額となる。
老齢受給金額の算出方法
老齢年金の受給額は、被保険者の年金加入期間と所得に応じて算出される。その際、被保険者個人の名目賃金を全被保険者の平均所得で割って出される「所得ポイント」が目安となる。被保険者の所得が全被保険者の平均所得と全く同じであれば、所得ポイントは1、それより少なければ当然ポイントは減り、多ければ増えるという仕組みだ。そして、保険料を支払っていた各年に関してこの計算をし、最終的にすべての被保険期間分の所得ポイントを算出。それに「年金現在価値(全被保険者の平均所得に相当する年金保険料を1年間支払い続けた場合の年金相当額=Aktueller Rentenwert)」を掛けたものが月額の受給額となる。
2009年7月より、年金現在価値は旧西ドイツ地域で27.20ユーロ、旧東ドイツ地域で24.13ユーロ。したがって旧西地域に住む所得ポイントが30の人であれば、30×27.20ユーロ=816ユーロが月額年金となる。
ドイツでは、27歳以上の年金支給開始年齢までの被保険者には年1回、拠出状況と将来の予測年金を記した年金情報が提供される。
数字で見るドイツの年金
ドイツの公的年金制度は日本と同様、現役の被保険者世代が拠出する保険料によって年金受給者世代の年金財政を賄う「賦課方式」を採用しており、保険料によって賄いきれない不足分(約30%)は国庫負担となっている。保険料率は現在19.9%(表1)。労使折半型で雇用者と被雇用者が半分ずつを負担する。この割合の今後の引き上げについては、2020年までは20%以下に保ち、2030年時点で22%以下に抑えることが定められている。
一方、45年間年金に加入していた年金受給者の、現役世代の実質・名目の平均所得に対する年金収入の割合を示す「年金水準(Rentenniveau)」は2009年時点で、名目が47.7%、税引き前の実質が52.0%で、こちらは年々減少傾向にあるという(表2)。また、同年の年金の平均支給額は旧西ドイツ地域で男性969ユーロ、女性500ユーロ、旧東地域では男性1019ユーロ、女性700ユーロ(グラフ1)だった。
SPDとCDU・CSUの大連立政権は2007年3月、2010年から2029年までに年金支給開始年齢を現行の65歳から67歳に引き上げることを決定した。2012年より毎年1カ月ずつ、2024年以降は毎年2カ月ずつ引き上げられることになっている(詳細は「ニュースを追跡」参照)。
| (表1)名目賃金に占める 保険料率の推移 |
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| 年 | 保険料率 |
| 1993 | 17.5% |
| 1994 | 19.2% |
| 1995 | 18.6% |
| 1996 | 19.2% |
| 1997-1999.3.31 | 20.3% |
| 1999.4.1-12.31 | 19.5% |
| 2000 | 19.3% |
| 2001-2002 | 19.1% |
| 2003-2006 | 19.5% |
| 2007-2010 | 19.9% |
| (表2)年金水準の推移 |
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| 年 | 名目 | 税引き前の実質 |
| 1970 | 49.5% | 55.2% |
| 1975 | 48.6% | 55.2% |
| 1980 | 50.2% | 57.6% |
| 1985 | 51.1% | 55.0% |
| 1990 | 50.2% | 52.9% |
| 1995 | 49.2% | 53.9% |
| 2000 | 48.2% | 52.9% |
| 2005 | 48.3% | 52.6% |
| 2009 | 47.7% | 52.0% |
(グラフ1)年金種類・性別 平均受給月額(ユーロ) 2009年

Quelle: Deutsche Rentenversicherung, Rentenversicherung in Zahlen 2010, Stand: 25. Juni 2010
保険料率の引き上げに年金水準の低下、支給開始年齢の引き上げと、現役世代にとっては老後の生活がますます心配されるような傾向が続いている。ドイツの「社会保障に手厚い国」という神話は、もはや過去の話となりつつあるのかもしれない。そこで政府は公的年金の給付削減分を補うため、「リースター年金」や「リュールップ年金」など、個人向けの年金制度を奨励している。
リースター年金 / Riester-Rente
2002年に当時のヴァルター・リースター内相の下で導入された「リースター年金」とは、この制度への加入者が支払う保険料に対し、政府による直接的な補助金もしくは所得控除を受けられるというものである。対象はドイツの公的年金加入者とその配偶者。受給時には助成金を含む積み立て元本の全額が戻ってくるというのが最大のメリットだ。連邦労働・社会省の統計によれば、リースター年金は目下の不況にもかかわらず、加入者数を順当に伸ばしている(グラフ2)。
リースター年金の受け皿商品は、連邦金融監督庁(BaFin)の認定を受けた年金保険、銀行預金、投資信託、建築貯蓄契約の4つ。被保険者はこれらの中から選択し、契約をする。
(グラフ2)リースター年金契約数の推移

Quelle: Bundesministerium für Arbeit und Soziales
リースター年金加入の条件と特徴
- 年金は60歳より前には支給されない(2012年から62歳以前に変更)
- 支給開始時点で、全支給額が全拠出額を上回っていることが保証されなければならない(元本保証)
- 支給開始時に、月払いである年金の終身払いが保証されていなければならない。ただし、支給開始時に積立金の30%を受け取るという選択もできる
- 契約金は5年以上の分割払いで請求される
- 3カ月前までの事前通知があれば途中解約、商品提供者の変更は可能。ただし、解約にはそれまでに受け取った助成金あるいは税金控除分全額を返金することが条件となる
- 拠出時は非課税、支給時には所得税率に応じて課税される
リースター年金はドイツで働き、社会保険料を納めている人なら外国人であっても加入可。ただし、終身年金であること、途中解約する場合にはそれまでに受けた助成金や控除分を返金する必要があることから、いずれ日本に帰国する予定の人には適さないと言えよう。ただ、2009年に欧州裁判所がこの点を指摘し、リースター年金がEUの規定する「移動の自由」に反して、外国人にとって不利な制度であると判断したため、今後は規定の見直しも予想される。
リースター年金と助成金の仕組み
助成金は、加入者に対して支払われる基礎助成と子どもがいる世帯への児童助成の2種類。上限額は基礎助成が154ユーロで、児童助成は子ども1人当たり185ユーロ(2008年以降に生まれた子どもについては300ユーロ)である。さらに25歳未満の新規加入者には、200ユーロの一時金が追加で支払われる。助成金を加味した年間拠出額の算出方法は以下の通り。
| 前年度の名目所得の4%の額 (上限2100ユーロ) |
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| ー | 基礎助成金154ユーロ (子どもがいる場合はその人数分の児童助成金をプラス) |
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| = | 年間の本人拠出額 |
例1:単身者の場合
加入者の2009年の名目所得:3万ユーロ
2009年の名目所得の4%:1200ユーロ
基礎助成金:154ユーロ
2009年の年間拠出額:1200-154=1046ユーロ
例2:両親と子ども2人の4人家族の場合
加入者の2009年の名目所得:3万ユーロ
2009年の名目所得の4%:1200ユーロ
基礎助成金: 308ユーロ(154ユーロ×2)
児童助成金:370ユーロ(185ユーロ×2)
2009年の年間拠出額:1200-678=522ユーロ
なお、助成金のみでは拠出額に対して受け取る補助の割合が相対的に少ないという単身者や高所得者は、所得確定申告の際に特別経費としてリースター年金の保険料の控除を申請できる。ただし、控除限度額は2100ユーロ。税務署が加入者の所得確定申告から、控除分と助成金を比較し、助成金の方が高い場合は助成金のみを、控除を受けた方がお得な場合は助成金に控除分を上乗せした額を受け取れる。
リュールップ年金 / Rürup-Rente
リースター年金が主に被雇用者を対象にしているのに対し、その恩恵を受けられない自営業者のための制度が2005年に開始された。それが、社会保障改革に関する政府の諮問委員会の委員長ベルト・リュールップにちなんで名付けられた「リュールップ年金制度」だ。
リュールップ年金はリースター年金制度と同様の形態を取っているが、助成金制度はなく、政府による補助は所得控除のみで、拠出額に上限がないのが特徴となっている。リュールップ年金の受け皿商品は、生命保険会社の年金保険である。
リュールップ年金加入の条件と特徴
- 年金は60歳より前には支給されない(2012年から62歳以前に変更)
- 毎月支給の終身年金である
- 相続、譲渡、担保としての貸与、売却、資本化はできない
- 保険料の支払い頻度の変更可(月払い、年払い、払い込み停止期間の要望申請可)











