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小説家カール・マイの博物館

ドレスデンの中心から北西約7kmの位置にある郊外の街ラーデボイル。その街の閑静な住宅地に、小説家カール・ マイ(Karl May、1842~1912)の旧宅があり、現在ではカール・マイ博物館(Karl May Museum)として一般公開されています。マイは、ヘッセやアインシュタイン、ヒトラーも愛読したという冒険小説作家です。彼が発表した約60の作品は各国語で翻訳出版され、全世界での発行部数の総計は約20億冊に上ります。ドイツの作家の中で、最も世界的に愛読された人気作家と言えるでしょう。

宅地に佇む博物館
静かな郊外の住宅地に佇む博物館

マイはザクセン生まれの生粋のドイツ人ですが、小説の舞台は主にアメリカ西部で、ネイティブ・アメリカン(いわゆるインディアン)を主人公としています。そして後に中近東(いわゆるオリエント)からも題材をとっていますが、これらの地を実際に訪れたのは、かなり晩年になってからのことでした。

彼は貧しい織工の家庭に14人兄弟(うち9人は生後数カ月で死亡)の5男として生まれました。青年時代は窃盗や詐欺などで服役を繰り返す荒れた生活を送っていましたが、服役中に没頭した読書と、良き指導者との出会いによって小説家になることを決意し、その後は次々に作品を発表していきました。 和訳された作品には、『ヴェネトゥの冒険』や『カール・マイ冒険物語』シリーズがあります。

通りに面した博物館「ヴィラ・シャッターハント(Villa Shatterhand)」は、彼が執筆活動のための静かな環境を求めて手に入れた住宅で、1895年に3万7300マルクで購入した記録が残っています。その奥にはネイティブ・アメリカンの民俗博物館となっている丸太小屋「ヴィラ・ベーレンフェット(Villa Bärenfet t)」があります。ドイツの日常生活では、何かとアメリカが遠いと感じますが、ここにはネイティブ・アメリカンの生活道具や衣装など約850点が展示されており、こんな近くで異国の生活と出会えることに軽いショックを受けました。そして住宅の一階では、彼の著作および中近東と北米への旅行記、持ち帰った品々が紹介されています。エキゾチックな物で埋め尽くされた応接間や図書室、夫人の部屋、書斎からは、彼の当時の生活の様子を知ることができます。

ヴィラ・ベーレンフェット
ネイティブ・アメリカンの世界が広がる
ヴィラ・ベーレンフェット

万博の世紀とも言われた19世紀は、ヨーロッパの人々の目が遠い異国に向けられ、その影響は、生活用品はもちろん、ジャポニズムやシノワズリのように絵画や音楽にも顕著に現れました。 実際に訪れたことがない地に題材を求めることは、現在では大胆不敵というより、むしろイカサマのように思われる節があります。マイの小説も、住宅も、当時の人々の世界観の典型と言えますが、交通手段も情報入手も未発達だったからこそ、遠い地に夢を馳せることができた幸せな時代だったのかもしれません。

福田陽子さん福田陽子
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
http://yoyodiary.blog.shinobi.jp/
 
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