Hanacell

ウクライナの子どもたちへ 勇気を与える2カ国語絵本

ハノーファー在住の絵本作家インゴ・ジークナーさんが、ウクライナの子どもたちをテーマにした小さな絵本『Iryna muss in ein fremdes Land』(イリナは異国へ行かなければならない)を出版しました。ジークナーさんは代表作『Der kleine DracheKokosnuss』シリーズをはじめ、これまでに50冊以上を創作。作品は28言語に翻訳され、累計販売部数1000万部を誇るドイツを代表する絵本作家です。

絵本を手にするインゴ・ジークナーさん絵本を手にするインゴ・ジークナーさん

今回出版された絵本は、児童施設KinderheimKleine Strolche e.V.から依頼を受けて制作されたもので、ドイツ語とウクライナ語の2カ国語で書かれています。この児童施設では、訳あって親と暮らせない子どもたち約70人を受け入れており、衣食住はもちろん、心理的サポートや母子支援も行っています。 ジークナーさんは同施設の大使を務めているほか、子どもミュージアムや学校をサポートするなど社会活動にも積極的に取り組んできました。

児童施設で子どもたちに絵本を紹介する様子児童施設で子どもたちに絵本を紹介する様子

ドイツでは1年前にロシアによるウクライナ侵攻が始まって、ウクライナから避難してくる人が増えています。実際に戦場を体験していなくても、急に異国に来て戸惑いを感じている子どもたちも少なくありません。絵本は、クマのイリナがお母さんに連れられて、ウクライナから別の国に来たところから始まります。

イリナは、そこでビーバーやキツネのほか、氷が溶けて北極から避難してきたシロクマ、山火事でオーストラリアを追われたコアラ、密猟者から逃げてきたアフリカゾウの子どもたちと出会い、みんなが小屋を造っていることを知りました。イリナは母国で戦争が起きていることを彼らに語るとともに、小屋造りに加わり、言語を学んでいきます。やがて小屋が完成。イリナはお母さんの手を引っ張って小屋に連れていき、友だちと一緒に造った小屋をお披露目するのでした。

冒頭では、イリナはお母さんに手を引っ張られて異国に来たけれど、最後はお母さんの手を引くほど、新しい土地での生活になじんでいます。ジークナーさんは「これまでシリアやアフガニスタンの子どもたちがドイツ語を習得し、社会になじんでいく様子を見てきた。大人は故郷に気持ちが向きがちだが、子どもはたくましい。子どもたちが未来を築いていくのだという思いを込めた」と話します。そして絵本を通して、「ウクライナの子どもたちには、新しい生活に希望を持ってほしい。またドイツの子どもたちには、ウクライナの子たちを歓迎するだけで、彼らの心はずいぶん軽くなるのだと知ってほしい」と語ってくれました。

インゴ・ジークナー作『Iryna muss in ein fremdes Land』インゴ・ジークナー作『Iryna muss in ein fremdes Land』

絵本は5万部発行され、幼稚園や小学校、子ども関連の組織にて無料で配布しています。オンラインでも無料公開しているので、ぜひ読んでみてください。

『Iryna muss in ein fremdes Land』:https://kinderheim-kleine-strolche.de/wp-content/uploads/2022/09/Minibuch_Ukraine_Inhalt_v03.pdf

田口理穂(たぐち・りほ)
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。ジャーナリスト、法廷通訳士。著書に『なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか(学芸出版社)』、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿(光文社新書)』、『夫婦別姓─家族と多様性の各国事情(筑摩書房)』など。
 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加


Nippon Express ドイツ・デュッセルドルフのオートジャパン 車のことなら任せて安心 習い事&スクールガイド バナー

デザイン制作
ウェブ制作