ジャパンダイジェスト

ユダヤ博物館の特別展「本当の真実」

ドイツで生活していると、日本にいたときよりもはるかに身近に感じられるのが「ユダヤ人」をめぐるテーマです。第2次世界大戦中のナチスによるホロコーストは、70年近くを経た今でも「記憶され続けるべき問題」として社会の中で共有されているのをしばしば実感しますし、ユダヤ人とパレスチナ人をめぐる中東問題は、メディアによって日本よりもずっと詳細に報じられています。

ただ、身近なようでいて遠いところにあるのもこのテーマです。私自身、日常の中でユダヤ人と接する機会はほとんどありません。ドイツには実際、どのくらいのユダヤ人が住んでいるのだろうか? 「あなたはユダヤ人ですか?」と初対面の人に質問するのはタブーではないのだろうか? 興味を抱きつつもなかなか近付けないもどかしさを時に感じていました。現在、ベルリン・ユダヤ博物館で開催中の特別展「本当の真実。あなたがユダヤ人について知りたいすべて」は、私だけが抱くわけではないであろう、そんな疑問に真っ向から挑み、話題を集めています。

中に入ると、赤字の上に大きく書かれたいくつもの「問い」に目が行きます。例えば、「人はいかにしてユダヤ人となるのか?」「ユダヤ人をどのように識別できるのか?」「ユダヤ教徒にとってなぜ割礼は重要なのか?」といったものから、「ホロコーストについてジョークを言うことは許されるのか?」「ドイツ人はイスラエルを批判しても良いのか?」といった“きわどい”質問まで。それらの横には、宗教や日常生活、現代アートなど、問いに関連した展示が施されています。

極めつけは、大きな展示室に置かれたガラスのショーケース。中にいるのは黒髪のマネキン人形……ではなく本物の女性! ボランティアのユダヤ人が毎日交代で「展示」され、訪れた人が自由に対話できるようになっているのです。

ガラスケースに座っている男性ガラスケースに「展示」されたユダヤ人

私はやや恐る恐る、中に座っている若い女性に話しかけてみました。彼女は3年前にイスラエルからドイツにやって来たアヤさんという方。「ガラスケース越しに話すというのが、どこかアドルフ・アイヒマンの裁判の写真を思い起こさせて、最初は抵抗がありました。でも、ちゃんと窓は開いているし、いろいろな方の関心に出会えるので私にとっても刺激的。実際、ユダヤ人と接点のない人はドイツでも多く、皆さん率直にいろいろなことを聞いてきます。展覧会の反響は大きく、『私もやってみたい』というボランティア希望者も多いそうですよ」。ユダヤ教に対する考え方から食べ物の話まで、アヤさんとは思ったよりもざっくばらんに会話ができました。

ユダヤ人に関する多くの問いに対し、わかりやすい「答え」が用意されている展覧会ではありません。しかし、複雑で不幸な歴史背景を持ち、それゆえに硬直化しがちなこのテーマにあえて踏み込もうとするキュレーターの強い意志に私は感服し、同時に「もっと知りたい」という気持ちになりました。同特別展は9月1日(日)まで開催。ユダヤ人の「展示」コーナーは、土曜以外の毎日14:00から15:30まで設けられています。

www.jmberlin.de

 
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中村さん中村真人(なかむらまさと) 神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。現在はフリーのライター。著書に『ベルリンガイドブック』(学研プラス)など。
ブログ「ベルリン中央駅」 http://berlinhbf.com
守屋健(もりやたけし)
ドイツの自動車、ビール、そして音楽に魅せられて、2017年に渡独。現在はベルリンに居を構えるライター。健康維持のために始めたノルディックウォーキングは、今ではすっかりメインの趣味に昇格し、日々森を歩き回っている。
守屋 亜衣(もりや あい)
2010年頃からドイツ各地でアーティスト活動を開始し、2017年にベルリンへ移住。ファインアート、グラフィックデザイン、陶磁器の金継ぎなど、領域を横断しながら表現を続けている。古いぬいぐるみが大好き。
www.aimoliya.com
佐藤 駿(さとう しゅん)
ドイツの大学へ進学を夢見て移住した、ベルリン在住のアラサー。サッカーとビールが好きな一児のパパです。地元岩手県奥州市を盛り上げるために活動中。
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