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音楽舞劇「Dance of Hagoromo」

ハノーファーで先月、ライブエレクトロニクス(電子音響)とビデオを使用した音楽舞劇「Dance of Hagoromo」が開催されました。これは、郊外の町ロンネンべルク在住の作曲家、大村久美子さんが古典の能の演目である「羽衣」を基に台本を手掛けた劇で、50人以上の観客が訪れました。

Dance of Hagoromo
観客を魅了した「Dance of Hagoromo」の舞台

大村さんは2012年、公共放送SWRの実験音楽スタジオとメディア・アートセンターZKMの共催による「ギガヘルツ賞・電子音楽コンクール」で若手作曲家のための奨励賞を受賞。今回の公演は、この受賞を機に実現しました。ハノーファー公演は、カールスルーエでの初演に続く2度目の舞台。開演前には大村さんが作品への想いを語ったり、哲学博士の有坂陽子さんが能や禅、無についてのトークを繰り広げるなどして、客席を盛り上げていました。

作品は、同公演のために来独した能楽師、青木涼子さんとフランス在住のテノール歌手、長谷川暁男さんの2人による舞台。舞台いっぱいに、昨年までベルリンに在住していた赤川純一さんの映像が映し出され、そこに真っ白な衣装に身を包んだ青木さんと長谷川さんが溶け込んでいます。2人の声は大村さんの手によってリアルタイムで音響加工され、ほかの電子音響と共に観客席を取り囲む前後左右のスピーカーから会場に響き渡りました。能という日本の伝統芸能に電子音響や映像という近代技術とテノールという西洋音楽が組み合わさった、まさに古今東西の融合と言える舞台です。

舞台上で挨拶する大村さんたち
舞台上で挨拶する大村さん(左から2番目)と出演者たち

青木さんが天女を、長谷川さんが漁師を演じ、映像が舞台に躍動感を与えます。天女が月の世界に戻る場面で舞が披露されると、あたかも能の要素が散りばめられたオペラという様相で、客席からは感嘆の声が上がっていました。「羽衣」を題材に選んだ理由を、「いや、疑いは人間にあり。天に偽りなきものを」という天女のセリフに深い感銘を受けたからだと語る大村さん。これまで主に西洋楽器のために曲作りを行ってきましたが、最近は日本の伝統文化や音楽に対する興味が深まり、能楽師の青木さんのためにすでに2曲を作曲しています。大村さんの作品は、これまでドイツやオランダなどで賞を受けているほか、欧州各地の音楽祭で演奏されるなど高い評価を得ています。

このように、ドイツで日本の文化を知る、あるいは知ってもらう機会があるというのは、日本人としてとても嬉しいこと。訪れたドイツ人も、日本人独特の心の動きや表現方法を知ることができたのではないかと思います。

大村さんの公式HP
www.kumiko-omura.com

田口理穂(たぐち・りほ)
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。社会学修士。ジャーナリスト、ドイツ語通訳。著書に『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に「お手本の国」のウソ(新潮新書) など。
 
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