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地域の歴史を受け継ぐ展示、個人の記憶を形にして残すこと

ドイツの芸術文化プロジェクトでは、アーティストだけでなく美術教育者が関わっている機会をよく目にします。美術教育者は学校という教育システムのなかだけで子どもたちに美術を教えるだけではなく、あらゆる形で一般の人たちにも「美術」を通じて何かを表現することを上手に伝えています。ほとんどのアーティストは「自分の作品」をつくることを前提としますが、美術教育者たちは自分以外の人たちが作品をつくる手助けをするので、一般の人が社会問題などを視覚的に表すために彼らが関わることはごく自然なことと言えます。

ライプツィヒ東部で地域に密着した芸術文化プロジェクトを展開している「プーゲハウス」という場所があります。彼ら自身が主宰するプロジェクトのほかにも、主に地域で活動している人たちがプロジェクトやイベントを持ち込むこともあります。そのなかで、今年9月から10月にかけて地域の50歳以上の高齢者を対象にしたプロジェクト「Meine Geschichte in Bildern(絵にする私の歴史)」が行われました。メディアアーティストのソフィーと美術教育者のカロリーネによる企画で、市の文化局の助成により実現しました。

このプロジェクトで彼女たちは、プーゲハウスから徒歩5分の距離にあるシルバーサロン「インゲ& ワルター」と共同で、ライプツィヒで生まれ育った4人のドイツ人とシリアからの難民1人が、それぞれ彼らの個人的な歴史をビデオ、写真、コラージュ、絵画という手法で表現しました。80歳に近い女性は、2002年に45年ぶりに行われたクラス会を元に、当時の同級生が現在はどこにいるかを探す旅をしました。すでに亡くなっている人もいましたが、ほぼ全員が今もライプツィヒに住んでいることが分かりました。彼女は友人たちの現在の住まいを地図に示し、当時の思い出を語ります。この機会に久しぶりに再会を果たした友人たちとの会話も加わり、録音された音声はヘッドフォンで聞くことができます。2人目の女性は住んでいる地区の現在とおよそ50年前の写真を並べ、3人目の女性は壁崩壊前後に劇的に変化した家族の状況をテキストに綴り、コマ送り動画を作りました。4回の週末に分けて行われたワークショップでは、子ども時代から暮らしてきた地域を一緒に歩いて回り、写真を撮り、コラージュの地図を作りました。1人の男性は自宅とその周辺を撮影し、彼の記憶と歴史を訪問する人たちに熱心に語りました。最後の男性は、母国シリアで馴染みのある文様をテープで壁面に表現しました。

会場風景と当時の同級生たちの現在の住まいを探した地図と音声ガイド
会場風景と当時の同級生たちの現在の住まいを探した地図と音声ガイド

このように一般市民が実際に暮らしている地域で個人の歴史を語り、形にして残すというプロジェクトでした。こういった活動は、その土地の歴史を語っていくうえで非常に大事なことだと考えさせられました。

自宅とその周辺を撮影した写真を見ながら、若い訪問者に説明する参加者
自宅とその周辺を撮影した写真を見ながら、若い訪問者に説明する参加者

プーゲハウス: www.pöge-haus.de

ミンクス 典子
福岡県出身。日独家族2児の母。「働く環境」を良くする設計を専門とする建築家。2011年より空き家再生社会文化拠点ライプツィヒ「日本の家」共同代表。15年より元消防署を活用した複合施設Ostwache共同代表。
www.djh-leipzig.de
 
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